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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(あ)1519号 決定 1978年10月06日

本店所在地

千葉市祐光二丁目一一番一二号

鈴や建設株式会社

右代表者代表取締役

鈴木績

本籍・住居

千葉市登戸町三丁目一七九番地

会社役員

鈴木績

明治四二年八月一〇日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、昭和五二年七月二〇日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人藤本勝哉の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環昌一)

昭和五二年(あ)第一五一九号

被告人 鈴や建設株式会社

同 鈴木績

弁護人藤本勝哉の上告趣意(昭和五二年一〇月一八日付)

第一、第一審判決は、明らかに判決に影響を及ぼすべき重要なる事実の誤認があり、第二審の東京高等裁判所もこれを看過したものである。第一審判決は「被告人鈴木績において被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て…売上の一部を公表経理から除外し、簿外預金を設定するなどの不正手段により所得の一部を秘匿させたうえ…虚偽の法人税確定申告書を提出させ……四五、一五八、四〇〇円を逋脱したものである。」旨判示する。

然し乍ら、被告会社及び被告人は、左記理由から法人税を逋脱する意思はなく無罪である。

一、千葉市祐先町の土地(東部土地)は、その殆んどを被告人鈴木績個人が資金調達して昭和三五年四月頃会社名義で購入されたもので、松下電工株式会社に売却した右土地の一部九九六・九九坪は、本来被告人鈴木績に帰属すべきであり、右売却代金は法人所得ではない。

(一) 本件東部土地の買収代金七千万乃至八千万円也についてその半額は被告人個人の鈴木組が右買収当時迄ゴルフ場造成により得られた資金でこれに当てられており、商工中金日本相互銀行等からの銀行借入も実質は被告人個人である外、不足分は被告人が当時所有していた資産・競走馬等の売却によりまかなわれているものである。

他方、被告会社は当時設立間もなく(昭和三三年八月二八日設立)、資本金も僅か金弐千万円也の個人会社に過ぎず、会社所有の資産は皆無で、市中銀行に対する信用は会社としては零に等しかった。

(二) そこで、被告人は東部土地の買収を個人名儀で行なうべく資金調達したところ、「(右土地)千葉市東部土地区画整理組合の区画整理にかかっている土地で公的事業であるから、買収するについても個人では困る、是非会社名義でして欲しい。」旨、千葉市からの強い要望に基づき、やむなく真実の所有関係とかかわりなく被告会社名義にしたものである。

又、被告人の調達した買収資金が会社名義で買収すると説明がつかないため、便宜上会社に対する貸付として計上しておいたところ、その後被告人が会社から借入れした際、経理担当者が被告人に無断にて差引計算をしたため、右貸付が返済された形となって了ったものであるが、右計算はあくまで帳簿処理上の問題であり、東部土地の所有権の帰属と無関係である。

二、仮に、東部土地が被告会社の所有に属するとしても、被告会社の代表者である被告人鈴木績には、法人税逋脱の意思なく、両名とも無罪である。

(一) 前項で述べた経験から、被告人は東部土地の過半が自己所有であると信じていたもので、そのため前記松下電工との買売当事者も自己名義で行ない、右代金の銀行預金も個人名義でしており、仮に法人税、その外税金の逋脱を企画するのであれば、かかる銀行預金をすることは到底考えられない。

(二) 昭和四六年当初、前年度の確定申告前被告会社は、同社の社員宍倉吉信を税務署にやり、東部土地の売却代金につき税務相談を受けさせた。

右税務相談の際、担当の岡税務事務官は法人所得か、個人所得か、いずれか一方で申告するよう確定的指導を行なっておらず、少なくとも諸般の事情を勘察して後日改めて判断する意味の回答を行なっており、右宍倉は後日何らかの税務署からの通知もしくは行政指導があると判断したからこそ、被告人にその趣旨を伝えたのである。従って、税金については素人である被告人としては、東部土地が自己所有であると考える傍ら何らかの税務署の行政指導があるものと思ったまま、個人所得として申告するのも失念していたものである。

然るに、税務署からの被告両名に対する通知も行政指導も全くないまま、国税局の査察を受けたものである。被告会社としては税務署が右不動産所得を真実、法人所得と認定するならこれに従う用意があったところ(その後税務署の認定に従い、本税の外加算税全てを支払済)、事前に脱税の意思のないことを明らかにする意味でも被告会社社員を税務相談にやっていたにも拘らず、適正な行政指導のないまま、右査察に及んだもので、右税務署の態度は甚だ不当なものと言わざるをえない。

(三) 被告会社は、前記東部土地の売却代金は法人所得から除外することに若干の懸念もあったので、同社の顧問税理士小高基弘に対し税務署等と接渉のうえ万一法人所得と認定された場合、何時にても修正申告の用意がある旨言明しており(証人鈴木志津子、同宍倉吉信の証言及び被告人の供述)、通常不動産登記の場合と対比してみれば明らかな通り、司法書士に対し不動産登記申請の依頼をすれば、登記申請を登記所に為したと同様に考えられるのと同じく、被告会社としても小高税理士に税務署等の調査と、万一の場合修正申告するよう依頼しておけば、本件の場合のように査察を受けた上起訴されることなど全く予測もしていなかった。

証人小高基弘、同小高みや子の証言によると、右事実に反する証言が、自己が税理士であるという立場を慮っての証言であり信用できない。

(四) 前記東部土地の売却代金は一円たりとも裏金にしたこともなく、又、被告会社は設立以来拾数年、故意に法人税を逋脱したこともない。然かも本件の場合、既に縷述した通り到底脱税できる状況下にあったものとは言えず、法人税逋脱の意思は全くなかったものである。

第一審判決は右重要なる事実を一顧だにせず判示したもので、破棄を免れない。

第二、百歩譲って、仮に前記諸事情をもってしても、第一審及び第二審判決は全く情状を考慮しておらず、被告両名が有罪とすれば左記事情から執行猶予の御恩典を賜り度く再度上告する次第である。

一、本件犯行自体、前述した通り何ら計画性がなく、偶発的であり、極めて単純な形態であり(検察官はこれは拙劣な脱税の仕方と指摘)、被告人、被告会社社員、税理士等、関係者の不注意に基因していたものである。

二、法人税は本税は勿論のこと、加算税を含め被告会社で既に支払済である。加えて罰金を課すことは被告会社を二重に処罰するに等しく、憲法違反の疑いがある。

三、被告会社は現在資本金壱億円也にも達し、千葉県下の官公庁からの工事の請負商では中小企業としては一、二を争い、信用も大である。仮に被告会社及び被告人に対し重刑をもって処断された場合、右信用は失墜し、今後の事業継続に多大な影響を及ぼすことになる。

四、被告人鈴木績は拾数年来、千葉県建設業会会長を務め、川島正次郎元副総裁の推挙もあって国会議員に立候補したこともある外、現在自由民主党千葉県連の常任顧問もしており、個人的にも信用大であり、仮に被告人が重刑をもって処断された場合、数拾年間被告人が築き上げた社会的地位も名誉も一挙に崩れ去って了うことにもなる。東部土地の売却代金も決して個人の遊興費に費消したものでなく、被告会社及びその子会社の大東商事株式会社の運転資金、及び被告会社の西山興業株式会社からの借入金の返済に主として充当していたものである。

五、昭和四九年来の石油危機により、建設、不動産業界は著しい不振をかこち、千葉県下でも多くの業者が倒産している状況下にあり、銀行からの借入は極端に圧縮されて、被告会社としても原判決の、金九三〇万円也もの罰金を課せられたなら、多数の社員の給料の遅配、下請業者への支払いも遅滞するばかりか、倒産の危険もあり、万一かかる事態になった場合、被告会社のみならず、官公庁や下請業者等多方面に甚大なる損害を及ぼすものである。

以上

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